投資理論

ROAとROEの違いとは?【どちらを使うのがいいのか】

株式長期投資はEPS成長率の高い、高収益の企業へ投資をすることによって高い投資収益率を実現することができますが、そのような高収益企業を判別するにはROAとROEのどちらを使用するのがいいのでしょうか。

ROAとROEの違いとともに、そのメリット・デメリットを解説していきます。

ROA・ROEといった利益率の高さは企業の強さ

ROA・ROEといった利益率の高さは企業の強さを表すもの。そのことをまずは分かりやすいように野球に例えて説明してみましょう。

野球において多くの安打が打てる優秀なバッターの見分け方はどのような判断基準になるでしょうか。答えは当然打率の高い打者。安打数では優秀なバッターかどうか見抜けないからです。

年間の安打数が同じ100本だとしても打席数が多くて打率が2割5分の選手と、途中加入などで打席数が少なく打率が3割の選手の違いのようなものです。打率が2割5分の選手と3割の選手とでは当然3割の選手の方が良い。

効率よく安打を打てるという事で同じ打席数であればより多くの安打を打つ事ができ、それだけ優れているということであるからです。そしてこれは企業にもあてはまります。

同じ1億ドルの利益といっても、多くの資本を投入した(投資を行った)場合と、少ない資本を投入した(投資を行った)場合では違ってくる。少ない資本で多くの利益を稼ぐことができるということは効率よく多くの利益を稼ぐ仕組みがあるということで、それだけその企業が強いということです。

実力の無いバッターが高い打率を残すことができないように、実力のない企業は高い利益率を残すことができない。現在企業の収益性や実力を図る指標として利益率はいくつかありますが、最も重要な指標はROA・ROEです

ROAとは

ROAとは企業の収益性を示す指標の1つで、企業が持つ資産に対してどれだけ利益を上げているかを表すもの。近年はROEとともに企業の収益性を表す指標として重要視されてきています。

ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資産(資産) × 100

例えば10万ドルの設備投資を行ってあなたがカフェをオープンしたとしましょう。その際借り入れはしないものとします。その場合10万ドルの設備投資をしたということは10万ドル分の土地や建物、つまりは資産を持っている。

そしてこのカフェで年間1万ドルの利益であればROAは10%ということになります。資産額の10%の利益をだすことができたということです。

そして近くに同じようなライバル店のカフェがあり、設備投資は同じく10万ドル。利益については5000ドルだとするとROAは5%となります。

この場合、あなたの店とライバル店ではどちらの方が実力のあるカフェだと言えるでしょうか。もちろん利益額の多いあなたの店舗ですよね。

あなたの店舗はライバル店より売上が多いのかもしれないし、客単価が高いのかもしれない。もしくは運営コストがライバル店より安いことも考えられる。いずれかの理由によってあなたの店舗はライバル店よりも多くの利益を生み出していることができ、それだけ実力があると言えます。

このようにROAは企業の実力を図る上で大きな道標となってくれます

また、製品やサービスに魅力が無い企業は同業他社と価格競争に陥るので決してROAを高めることができない。顧客を繋ぎ止めるために販売価格を下げることしかできず、利益が圧迫されるからです。そのような企業の利益率は下がり、結果として低いROAであるということになります。

ROEとは

 ROEは現在企業分析において企業の収益性を計る指標として利用される事が多くなってきました。ROEとは株主から預かったお金(株主資本)をどれだけ効率よく運用できるかを表した割合の事で、10%などとパーセンテージで表されます。

ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本(※) × 100
(※自己資本=純資産-新株予約権-少数株主持分)

ROEはROAとともに企業の収益性を測る重要な指標。しかし、ROEには大きな弱点があります。

ROEの弱点

ROEは分母となる自己資本が減った場合や、運転資金の借り入れなどを行うことによって高い数字がでてしまうという弱点があります。このことを理解しないでROEを使用すると企業の収益性を見誤ってしまうことになりかねません。

ケース1 赤字による自己資本の減少

次のような企業があるとします。ある年(1年目とする)の経営状態は、

自己資本 ~ 10億ドル
当期純利益 ~ 1億ドル

です。この場合のROEは、

1億 ÷ 10億 × 100 = 10(%)

となり、ROEは10%。しかし翌年から3年間は大幅な赤字になり、5年目には自己資本が5億ドルに目減りしてしまったとします。そして5年目には業績が回復し、1年目と同じ、1億ドルの利益を計上できたとする。その場合はこうなってしまいます。

【1年目】 純利益…1億ドル、自己資本…10億ドル、ROE…10%
【5年目】 純利益…1億ドル、自己資本…5億ドル、ROE…20%

5年目にはROEが20%になってしまっています。3年間赤字を計上して収益性を向上させた訳ではないのに(1年目と5年目では同じ1億ドルの純利益)、ROEが10%から20%になってしまっているんです。

つまり赤字を計上すると自己資本が目減りし、収益力が向上していなくてもROEを押し上げてしまう。業績が不安定で赤字を計上すればするほどROEが向上するという矛盾があるということをよく覚えていなくてはなりません。

ケース2 自社株買いによる自己資本の減少

自社株買いとは「企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株を買うこと」であり、発行株式数を減らすことによってEPSなどを向上させるものです。そうすることによって株主へ利益を還元することができます。

自社株買いは企業の株主への利益還元策の一つで悪い事ではないのですが、企業の収益性を計る時には注意が必要。自社株買いによってROEが向上するからです。このROEの上昇は企業の収益性の向上とは関係がないため、ROEが高いからといってその企業の収益性が高いと誤解を招きかねないのです。

ここに毎年100万ドル、自己資本1000万ドルの利益を計上する企業があるとしましょう。利益はほとんど自社株買いにあて、数年後には自己資本を800万ドルまで減少させたとする。

【1年目】 純利益…100万ドル、自己資本…1000万ドル、ROE…10%
【数年後】 純利益…100万ドル、自己資本…800万ドル、ROE…12.5%

となります。

同じ工場で同じように生産し、同じ値段で売り、経費も同じであるとすれば、決して収益性が向上した訳ではありません。しかし同じ100万ドルの純利益であっても自社株買いによって自己資本が減少してROEは10%から12.5%に増加しています。

株主にとってみれば喜ばしいことではあるかもしれませんが、企業の根本的な強さが向上した訳ではない事は重ねて強調しておきます。このような事例は設備投資があまり必要ではなく、現金が多く余っている企業によくみられます。

ケース3 レバレッジによるROEの向上

レバレッジとは「てこの原理」のことで、少ない資金でより大きな取引をすること。企業活動においては負債、つまり借入金などを増大させることなどによってより大きな経済活動を行おうということです。借金をして設備投資などを増大させ、より大きな利益を得ようというわけであり、そうすることによってROEは向上します。

ここにA社とB社があるとします。この2社の経営状態はこう。

A社 ~ ROE…20%
純利益…200万ドル、自己資本…1000万ドル、負債…1000万ドル

B社 ~ ROE…20%
純利益…200万ドル、自己資本…1000万ドル、負債…4000万ドル

この2社のROEはともに20%。しかしこの2社の収益力は同じと言えるでしょうか。

A社は自己資本と負債を足して2000万ドルを使用して200万ドルを稼いでいるのに対し、B社は5000万ドル使用して200万ドルの利益です。資金の有効活用の観点から考えれば明らかにA社の方が優秀です。そしてB社は負債が多くて経営が不安定になることは避けられそうにない。

このように負債を増加させればROEを増大させる事ができてしまうのです。しかしこれも自社株買いのケースと同じで企業の収益力の向上を意味しない。収益力の低い事業は利益が安定せず赤字に陥る可能性も高いからです。収益が安定しない事業を多く抱え込み借金を増大させた企業が安定した活動をおくれるはずもないですよね。

企業の収益性を測るにはROEよりもROAがおすすめ

前述のとおりROEは自己資本を減少させるだけで簡単にその数値を上げることができてしまいます。これでは企業の根本的な強さを計る指標としては欠陥があると言えます。

そこでROAを使うことによって企業の収益性、つまり本当の強さが見えてくる。ROAはそのような小手先の手法ではその値を上げることはできません。つまり企業の真の実力を計ることができる指標であると言えるでしょう。